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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)48号 判決

控訴人

富田力

右訴訟代理人

大庭登

被控訴人

葛飾税務署長

熊谷虎夫

右指定代理人

細井淳久

外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和三九年二月二九日付でした控訴人の昭和三五年分所得税についての決定処分が無効であることを確認する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  主文第一項同旨

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の事実上、法律上の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一である(但し、一〇枚目裏三行目に、「四〇八万三〇〇〇円」とあるのは、「二一七万九九七五円」の誤記と認められるから、これを訂正する。)から、ここにこれを引用する。

一  控訴人

被控訴人は、本件土地の京成電鉄に対する転売処分において控訴人に五三三万五四一六円の処分利益が発生しなかつたとしても、控訴人は訴外日伸商事から別に謝礼として合計二一七万九九七五円の支払を受けることにより特別利益を得たから、本件課税処分は違法ではない、と主張するが、そもそも、特定の不動産の処分による譲渡所得ないし雑所得があつたとしてされた課税処分の効力が争われた場合に、当該不動産については処分がなく、したがつて譲渡所得も雑所得もなかつたが、他に雑所得たる特別の利益があるとしてこれを右課税処分の根拠とすることは許されないものというべきである。

二  被控訴人

控訴人は、(1)本件土地につき登記簿上持分二分の一の所有名義人となつていただけでなく、本件土地の買受け及び売渡しの折衝をもつぱら担当し、その売渡代金を現実に受領していること、(2)本件土地の売買契約書(甲六号証)の冒頭には、売主が控訴人である旨明記されていること、(3)本件土地につき控訴人と日伸商事との共有名義の登記が経由されるに至つたのは、控訴人の一存で行われたものであること、(4)控訴人が右のように登記名義人となつたのは、控訴人のした本件土地を含む宮久保町地区一帯の土地の買受け及び転売に関して、日伸商事からなんらかの利益を得られることと意図し、右利益を確保するために行つたものであること、(5)控訴人自身も、本件土地につき共有名義の登記を経由すれば、その譲渡により控訴人自身にも所得税納付の義務が発生するものと予想していたこと等の事情が認められるのであり、右のような事情のもとでは、控訴人が、仮に本件土地及び第二の土地につきなんらの権利をも有していなかつたとしても、それは本件課税処分の取消原因となるにとどまり、これを無効ならしめるものではない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の理由の説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一〈証拠関係省略〉

二同一三枚目表五行目から六行目にかけての「しかし、」以下七行目までを「しかし、控訴人に対する利益の分配や報酬の支払については、最終段階での話合いによるというほかは、具体的な取り決めはされなかつた。」と改める。

三同枚目裏三行目の「しかし、」以下一四枚目表三行目までを次のとおり改める。

「ところで、日伸商事は、昭和三五年七月、本件土地及び第二の土地の買収資金として、平野商事から六〇〇万円を借り入れることとなつたが、平野商事の代表取締役平野和三郎及びその後継者の平野耕市郎は、日伸商事の代表取締役松河松雄に対して従来の取引上のいきさつから不信の念を抱いていたため、控訴人に対し右貸借については控訴人もまた日伸商事と並んで連帯債務者となること及び右貸借上の債務のため本件土地や第二の土地の担保提供を受けるにあたり日伸商事がこれらの土地を他に転売するなどして法律関係が錯綜するのを防止するために、これらの土地の所有名義人に控訴人が加わることを要求した結果、控訴人は、本件土地及び第二の土地につき岡野谷からの買受けにより日伸商事と控訴人とが持分二分の一づつの共有による所有権を取得したものとして両名への所有権移転登記手続をしたうえ、平野商事から融資を受けた六〇〇万円の消費貸借上の債務につき、日伸商事と並んで連帯債務者となるとともに、平野商事のための抵当権と停止条件付賃借権とを設定しそれぞれその旨の登記を経由した。これらの登記をしたことは、その頃、松河の知るところとなつたが、同人はこれに異議を唱えることがなかつた。」

〈中略〉

六同一四枚目裏九行目から一六枚目表四行目までを次のとおり改める。

「以上の事実を認めることができ、これを左右するに足りる的確な証拠はない。

右に認定した事実関係によれば、本件土地が京成電鉄に売り渡されるについては、買主たる京成電鉄との間に日伸商事と控訴人を共同の売主とする売買契約が締結されてはいるが、それは、前示の経緯によつて控訴人が日伸商事と登記簿上共有者となつたからであつて、真実控訴人が本件土地について単独所有権ないし共有持分権を取得したことによるものではなかつたことが明らかである。してみれば、控訴人が本件土地につき二分の一の共有持分権を有することを前提として控訴人において右共有持分に相応する利益を得たものとしてされた本件決定処分は、ひつきよう、所得の帰属者を誤つたこととなる点において重大な瑕疵を帯びるものといわなければならない。

しかしながら、右瑕疵が本件決定処分を無効ならしめる瑕疵となりうるためには、所得の帰属に関する被控訴人の認定が誤りであることが本件決定処分成立の当初から、外形上客観的に明白であつたことを要するものと解すべきところ、さきに認定した事実関係によれば、本件土地及び第三の土地が京成電鉄に売り渡されるについては、もつぱら控訴人が売主側の交渉役を担当したものであり、その際、各土地の登記簿上の所有名義人が所有者かつ売主であるとして交渉が行われ、売買契約が締結されたものであるところ、そのうち本件土地については控訴人も登記簿上日伸商事とともに持分二分の一の割合による共有者となつていたから、外形上は共同の売主である日伸商事ないし松河松雄の代理人であるにとどまらず、売主の一人と考えられる地位にあつたし、売買代金はその一部が訴外永代信用組合により代理受領の形式で受領されたほかは、いずれも控訴人がこれを受領しており、その際作成された領収書中にも控訴人を売主として表示したものが存在した、というのである。以上のような事実関係のもとにおいては、控訴人が右売買により登記簿上の持分に相応する利益を得たとの被控訴人の認定が誤りであることが本件決定処分のされた当時から、外形上、客観的に明白であつたとは到底いうことができず、したがつて、本件決定処分についての右の瑕疵は取消事由たる瑕疵にとどまるものというべきであるから、右処分の無効を主張する控訴人の主張は理由がないものといわざるをえない。」

以上によれば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局正当であることに帰すから、本件控訴を理由なしとして棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(小林信次 吉井直昭 河本誠之)

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